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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)13号 判決 1985年3月04日

原告

山本かよ子

長谷川久子

右両名訴訟代理人

鶴田健

被告

兵庫県知事

坂井時忠

右指定代理人

矢野敬一

外六名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五五年七月三一日付一時利用地指定通知書によつて、原告山本かよ子に対し別紙目録一(一)記載の各土地の一時利用地として同目録一(二)記載の土地を指定した処分並びに同長谷川久子に対し同目録二(一)記載の各土地の一時利用地として同目録二(二)記載の土地を指定した処分をそれぞれ取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

原告山本かよ子(以下「原告山本」という。)は、別紙目録一(一)記載の(1)ないし(5)の各土地を所有しており、同目録一(一)記載の(6)の土地については所有者稲岡巽から原告山本の父長谷川耕次に譲渡する旨の合意が稲岡巽と長谷川耕次との間でされ、更に長谷川耕次から同土地を原告山本に譲渡する旨の合意が長谷川耕次と原告山本との間でされている。

原告長谷川久子(以下「原告長谷川」という。)は、別紙目録二(一)記載の各土地を所有している。

被告は、土地改良法に基づく志方地区県営土地改良事業の施行者である。

2  本件各処分の存在等

(一) 別紙目録一及び同目録二記載の各土地は、右県営土地改良事業の施行地域のうちの第一一工区内にあるが、被告は原告山本に対し、昭和五五年七月三一日付一時利用地指定通知書(三土改第六四五号―一〇〇)によつて、同目録一(一)記載の(1)ないし(5)の原告山本所有の各土地及び前述の通り所有者稲岡巽が長谷川耕次に譲渡し、長谷川耕次が更に原告山本に譲渡する旨の合意がされている同目録一(一)記載の(6)の土地を従前の土地とし、これらの各土地の一時利用地として同目録一(二)記載の土地を指定する処分をし、原告長谷川に対しても同日付一時利用地指定通知書(三土改第六四五号―九六)によつて、同目録二(一)記載の原告長谷川所有の各土地を従前の土地とし、これらの各土地の一時利用地として同目録二(二)記載の土地を指定する処分をした(以下原告らに対して行つた右各一時利用地指定処分を「本件各処分」という。)。

なお、別紙図面一は志方地区県営土地改良事業の第一一工区のうちの大沢地区及びその周辺部分の従前地図と、土地改良事業により創出される新区画の圃場、用排水路、道路等を示す図の重ね図であり、同図面二は同図面一の中央部分を拡大した図面であるが、別紙目録一(一)記載の各土地の位置は同図面二の赤色で着色した部分、同目録二(一)記載の各土地の位置は同図面二の青色で着色した部分である。

別紙図面三も同図面一の中央部分を拡大した図面であるが、原告山本が一時利用地として指定を受けた仮地番一二九番の区画は同図面四の赤色で着色した部分、原告長谷川が一時利用地として指定を受けた仮地番一二八番の区画は同図面四の青色で着色した部分である。

(二) 原告らは昭和五五年九月二五日付をもつて被告に対し本件各処分についてその取消しを求めて異議申立てをしたが、被告は昭和五七年一月二〇日付をもつて異議申立てを棄却する旨の決定をした。

3  本件各処分の違法性

本件各処分は、以下のとおり違法であるから取り消されるべきである。

(一) 土地改良法八九条の二第六項は、県知事が一時利用地を指定できる場合として、①土地改良事業の工事のため必要がある場合、及び②換地計画に基づき換地処分を行うにつき必要がある場合をそれぞれ規定しているが、本件各処分は右のいずれにも該当せず、違法な処分である。

すなわち、

(1) 右の①の場合に指定される一時利用地とは換地予定地としてのものではなく、あくまでも工事目的のための一時使用的な純然たる一時利用地と解すべきである。

本件第一一工区の土地改良工事(圃場整備工事)は、昭和五四年秋の稲作収獲ママ後の一一月ころに着工され、翌五五年六月にはその大部分が完了し、本件各処分の行われた同年七月三一日当時には、右第一一工区の土地改良工事は既にほとんど完了していたのであるから、本件各処分が右①の場合に該当しないことは明らかである。

(2) 次に右②の場合とは、土地改良法五二条五、六項、八七条五ないし七項、八九条の二等の定める手続を経て定められた換地計画に基づいて行う換地処分の前段階として一時利用地の指定する場合をさす。

しかしながら、右第一一工区においてはいまだに換地計画は定められておらず、本件各処分が右②の場合に該当しないことも明らかである。

(二) 本件各処分は以下のとおり不公正な手続を経てされたもので違法な処分である。

すなわち、本来県営土地改良事業にあたつては一時利用地の指定は被告の権限であるから、その案の作成に当つても先ず公正な換地理論に合致し、かつ当該地域の事情に相応した換地設計基準を作成し、この基準に基づいて公平な立場で慎重に検討して一時利用地指定案を作成すべきであるが、被告が右権限を委任して志方土地改良区に対し同一時利用地指定案の作成を委託した場合であつても、同案の作成手続が公正、公平かつ合理的に行われるよう指導監督する責任があり、また、同案の内容についても公正、公平かつ妥当なものであるかどうかについて慎重に審査検討し、不公正、不公平かつ不当な点があればこれを是正する責任がある。

ところで、志方土地改良区は第一一工区のうちの大沢地区については、大沢地区に農用地を所有する理事稲岡巽、換地委員稲岡隆明、同長谷川嚴らに一時利用地指定案の作成を一任し、これらの者が換地設計基準を作成して選定作業を行つたが、右の理事、換地委員らが自己及び自己の親族、知人らを有利に、原告らを不利に取り扱い極めて不公正かつ不公平な内容の一時利用地指定案を作成した。

本来、志方土地改良区の定款、規則、規約によれば、県知事から一時利用地指定案作成の委託を受けたときは、まず換地委員らで換地設計基準を作り、これに基づいて換地委員会が慎重に検討審議して具体的な指定案を作成してこれを理事会に提出し、さらに理事会が慎重に審議して改良区として決定する案を作成しなければならないとされている。

にもかかわらず、志方土地改良区においては、換地委員会も理事会も開催されず、従つて、大沢地区の理事、換地委員らが作成した案に何ら審査、検討を加えることなく同改良区が正式に決定した一時利用地指定案として被告に答申し、被告もこれに対し何らの検討、審議、審査を加えることなく、右指定案どおりに本件各処分をしたもので、被告が前記の責任を果たすことなく行つた本件各処分は、違法である。

(三) 本件各処分、特に原告山本に対する処分は、志方土地改良区第一一工区の換地設計基準に違背した大沢地区の一時利用地指定案に基づき不公正に行われたもので違法な処分である。特に原告山本に対し仮地番一二九番を指定したことは、以下に述べるとおり不公正、不公平で土地改良法及び法の下の平等を規定した憲法一四条にも違反するものである。

(1) 県営土地改良事業の場合は、県知事は土地改良事業計画を作成し、その中に換地計画の概要を定めなければならない(土地改良法七条三項、八七条一項、土地改良法施行規則一四条の二第一項七号)。そして純然たる工事用の場合を除き、一時利用地指定の場合も、最終的換地の指定の場合も、右の換地計画の概要に準拠し、かつ当該地区の実情に応じた換地選定の基準及び手順を予かじめ定めた換地設計基準を作成し、この基準に基づいて具体的選定の作業をすることが、確立された換地理論の原則である。

そして、右の換地設計基準は、単なる権利者相互間の事実上の調整基準ではなく、公正、公平かつ合理的な換地(換地予定地としての一時利用地の指定を含む。)を行うために必要不可欠な法令上の基準であり、事実、同基準の設定は法が当然に要求し、法令にその根拠を有するものである(土地改良法五二条の五は換地計画の内容の一つに換地設計を明定している。)。

特に、土地改良事業の推進に際しての農用地集団化の目的との関連で考察するならば、換地設計基準は、右目的と関係者の財産権保障の目的とさらに関係者間の公平、平等の原則とを共に調和的に達成するための基準であり、従つて同基準を最大限に遵守尊重し、これに基づいて換地を実施することによつてはじめて、右の農地集団化の目的、権利者の財産権の保障さらに右公平、平等の原則を最大限に尊重した納得のいく換地処分が実現されることとなる。そのためには、同基準に基づいてした一時利用地指定案をさらに調整することは最小限度に留めなければならず、まして特定の者のみに農地集団化の目的を厳しく要求する余り右設計基準に反する不公平、不平等な処分をすることは絶対に許されない。

(2) 志方土地改良区第一一工区においても、同改良区から一時利用地指定案の作成を一任された前記理事、換地委員らは、被告の指導によつて、右指定案作成につき準拠すべき換地設計基準(甲第五号証)を作成しているが、同基準は志方土地改良区が作成した一般的基準をそのまま流用したものである。従つて、同基準は細部においては大沢地区の実状に適合しない点もあるが、換地選定の順序、位置の選択方法、指定地の面積等重要な点においては確立された換地理論にも合致した公正妥当なものであつた。

同基準の換地選定の順序、位置の選択方法、面積差等重要な点は左のとおりである。

① 換地選定の順序は次の順序で行う。

(ア) 条件差のある区域

(イ) 小農家(換地交付基準地積一〇〇〇平方メートル以内)

(ウ) 一般個人

② 一般個人の位置の選択方法は次のとおり行う。

(ア) 選択の順位は従前地の集団化率(換地交付基準地積を従前地の団地数で除した数値)の高い順とする。

(イ) 選択順位に従い一区画づつ順次各農家に配分し、一順目の配分が終了した後に二順目の配分をする。

(ウ) 配分区画は従前地の最大団地の中心地番の指す区画を優先換地する。他の者に優先換地した結果その位置から離れる場合は後順位最大団地の中心地番の指す区画又は隣接区画を換地する。

(エ) 区画の分割は原則として長辺に沿つて分割し、短辺側の最小辺長は一〇メートルとする。一〇〇〇平方メートル未満の配分(分割)は選定された区画の属する圃区の路肩区画を交付し、原則として短辺に沿つて分割し、最小辺長は一〇メートルとする。

(3) ところが、大沢地区における一時利用地指定案の作成に従事した前記換地委員稲岡巽ら三名は、少なくとも原告らに関しては右換地設計基準を無視して他の者と比べて不公平、不平等に取り扱つた内容の指定案を作成したものである。このことは、以下に述べるように原告らと稲葉秀治(同人の従前地は別紙図面二及び同図面三の黄色で着色した部分であり、一時利用地は同図面四の黄色で着色した部分で仮地番一二七番の区画である。)とを端的に比較すれば、明白である。

すなわち、原告らも稲葉秀治も前記換地設計基準①の(ハ)の一般個人に該当する。そこで、両名を同基準②(イ)の位置選択の順位で比較すると、原告らは一二番目であるから二七番目の稲葉秀治よりはるかに先順位である。従つて、原告らはまず一順目の指定において当然稲葉秀治に優先して、自己の希望した一時利用地区画の指定を受けうる立場にある。

そこで、次に同基準に照らして指定すべき区画を検討するに、原告らの従前地の最大団地は別紙図面二で明らかなとおり仮地番一二七番区画の大部分を占め、次順位最大団地は同一二八番区画の約半分を占め、これに比較して稲葉秀治の従前地は同図面二、三で明らかなとおり各所に散在しており同一二七番区画及び同一二八番区画には全く関係がないところからして、原告らに対しては一順目に仮地番一二七番区画を二順目には同一二八番区画を(原告らに優先して同区画を指定されるべき者が居ないので)指定し、不足地積は更に他の何処かを指定すべきである。稲葉秀治にこれらの区画、特に同一二七番区画を指定すべき根拠は全くない。

ところで、原告らは同一耕作単位をなしているが、一順目に指定されるべき仮地番一二七番区画には原告長谷川の従前地より原告山本の従前地がはるかに大であるから、同区画は原告山本に指定されるべきである。

(4) 原告山本に仮地番一二七番区画を指定し一時利用地の交付不足地積(後記二八一平方メートル)を同一二六番区画又は同一三二ノ三番区画、あるいは同一二九番区画より分割指定することは、後記のとおり指定地積差の不均衡さをより縮小し後記照応の原則により適ううえ、同一二六番区画は当初より分割予定地なので農用地集団化の目的を阻害するものでもなく、世人の一般社会常識からみても極めて合理的妥当な指定である。

① 大沢地区における換地交付基準率九一パーセントで計算した原告両名の後記不足地積二八一平方メートルは、大沢地区の換地設計基準により分割予定区画となつている仮地番一二六番区画から分割して原告山本に指定すべきである。

右一二六番区画は、分割されずに長谷川嚴に指定されているが、同区画から二八一平立メートルを分割しても、被告が同一耕作単位と主張している長谷川嚴、松野松治、長谷川健次郎には何ら特別の不利益を与えないのみならず、かえつて照応の原則により適う(その結果によつても、なお、換地交付率は107.69パーセントからなお103.75パーセソトの高率になるが)。

② また、仮地番一二六番区画は、大沢地区の換地設計基準により農用地集団化の目的を十分に考慮したうえで当初より分割田として予定されていた所であり、同区画を分割しても農用地集団化の目的を阻害することにはならない。

なお、大沢地区では同じ第一一工区内の他の地区に比べて十分過ぎる程農用地集団化が行われていることも考慮されてよいし、さらに農用地集団化をはかるとしても、原告山本についてのみ分割田を理由に不合理な指定を行うことは平等、公平の原則に反しとうてい許容されない。

③ 仮に、分割田を理由に原告山本に対し仮地番一二七番区画と同一二六番区画の一部が指定できないとすれば、同一二七番区画と同一三二ノ三番区画を指定すべきである。同区画は既に分割田であつて農用地集団化の目的に反しないし、被告は稲岡隆明と稲岡壽を同一耕作単位として同区画を稲岡隆明に指定しているが、換地交付率が104.16パーセントから100.06パーセントに変るだけで、同一三二ノ三番区画のうち二八一平方メートルを原告山本に分割指定しても同人らに特別の不利益を与えることにはならない。

④ 原告山本に仮地番一二七番区画を指定したとしても、同一二七番区画の指定を受けた稲葉秀治に同一二九番区画を指定すれば、同人に不当な換地処分をしたことにはならない。すなわち、同人は換地選定の順位において原告山本に劣るのみならず、換地交付率からみても、同人は同一二七番区画の指定を受けているので換地交付率は90.56パーセントになつているが、同一二九番区画を指定されると換地交付率は99.13パーセントになり、かえつて有利な指定を受けたことになる(原告山本に同一二七番区画を指定し、なお換地交付地積不足分二八一平方メートルを同一二九番区画から分割指定しても、稲葉秀治の換地交付基準地積より三六平方メートル減となるにすぎないし、同一二九番区画は分割予定田でもあり集団化の目的に反しない)。

ところが、被告は右事情を看過して農用地の分割化の幣ママ害を被告山本に対してのみ強調する余り、同一二七番区画を指定せずに、同一二九番区画を指定するという違法、不当な本件指定処分をした。

(5) さらに、原告山本に仮地番一二七番区画を指定せずに同一二九番区画を指定することは、原告山本に以下のように大きな不利益を強いることになり、この点においても他の権利者らと比較して不公平、不平等な処分といわざるをえない。

① 原告らの自宅は仮地番一二七番区画の西南方に近接した位置にあり、原告山本にとつて仮地番一二七番区画と仮地番一二九番区画を対比したとき通作距離は仮地番一二九番区画の方が約二倍となる。特に、近接した位置に自宅があつてわざわざ自動車を利用する必要がなく手押車等で農機具や肥料等を運搬して耕作する原告山本のような者にとつては通作距離が二倍になるということは大きな不利益である。

② 仮地番一二八番区画と仮地番一二九番区画との間に通作道があると農機具等を一方から他方に移動させるとき余分の手数がかかり、そのため連続した農作業が中断され耕作には不便である。

③ 仮地番一二七番区画は南北に通ずる中央幹線道路に沿つた位置にあり中央幹線道路との間に狭い水路があるが、幅約三メートルのコンクリート製の橋を通つてすぐに出入り出来る。これに比較して仮地番一二九番区画は中央幹線から離れた位置にある。幹線道路沿の土地の方が支線道路沿の土地よりも地価が高いのが当然であり、この点からも原告山本にとつて不利益である。

④ さらに、仮地番一二七番区画は原告らがその大部分を従前地として所有していたところであり、過去何百年にわたり営々として先祖から耕作を続けて来た伝来の土地である。農家として殊更愛着の深い土地である。これを理由もなく失いその土地を毎日眺めながら遠方の他の土地を耕作しなければならないということは、大きな精神的苦痛である。

(四) 被告の原告らに対する本件一時利用地指定処分は、土地改良法五三条一項(同法八九条の二第八項で準用する五三条の五第二項に基づく。以下、同様。)所定の照応の原則に反し、また、換地委員長長谷川嚴らに対する一時利用地指定処分に比較し著しく不公平、不平等に取り扱つたもので、違法な処分である。

(1) すなわち、原告長谷川の所有する従前の土地四筆の合計地積は二九六三平方メートルであるのに、これに対し同人に指定された一時利用地仮地番一二八番区画の地積は二五四九平方メートルである。本件一時利用地の指定は、換地を前提としたものであり、大沢地区における換地交付率は九一パーセントである。従つて、原告長谷川には一時利用地として二六九六平方メートルが指定されるべきであるのに、二五四九平方メートルしか指定されておらず、一四七平方メートル不足している。

原告長谷川の従前の土地四筆と一時利用地として指定された仮地番一二八番区画との位置関係は、別紙図面二と同図面四を照合すれば明らかなとおり重複ないし近接した関係にあり、用途、土性、水利、傾斜、温度等の自然条件には殆んど差異はなく、両者を総合的に比較勘案する要素は地積のみである。にもかかわらず、原告長谷川の場合は換地交付基準地積に比して一時利用地は一四七平方メートルも過小であり、これは換地交付基準地積の5.8パーセントに当たり、無視出来ない面積である。

むしろ、前記換地設計基準では換地交付基準地積より一〇〇平方メートルの幅で増減が許容されることとなつているので、原告長谷川に対しては仮地番一二八番区画のほかに一四七平方メートル以上二四七平方メートル以下の範囲内で、仮地番一二六番区画から分割した地積を加えて指定することが相当である。

(2) また、本件指定処分を他の権利者らの指定処分と比較すると、原告長谷川に対する本件一時利用地指定処分は、換地委員長長谷川嚴らに対する一時利用地指定処分より著しく不公平、不平等に取り扱われていることは、以下に述べるところより明らかである。

① 換地委員長長谷川嚴が大沢地区において有していた従前地は字女郎田六九九番の田九〇五平方メートルと同七一〇番の田九六一平方メートルの二筆合計一八六六平方メートルであつたので、換地交付率九一パーセントで計算すると、同人に対する換地交付基準地積は一六九八平方メートルとなる。

ところが、同人に対しては換地交付基準地積の倍近い地積の土地(仮地番一二六番区画二六一四平方メートル及び仮地番一四四番ノ三区画九四八平方メートルの合計三五六二平方メートル)が一時利用地として指定されている。しかも、換地設計基準では分割区画となるべき仮地番一二六番の区画が分割されずに同人に対し指定されている。

② 右は、被告が同一耕作単位と主張する長谷川嚴、松野松治、長谷川健次郎三名について全体的に評価してみても同様である。すなわち、右三名の従前地の地積合計は七一一八平方メートルであるのに、これに対し被告が指定処分をした一時利用地の地積合計は七六六六平方メートルで従前地よりも五四八平方メートルも多く指定している。

③ また、仮地番一三二ノ三番区画の指定を受けた稲岡隆明についてみても、被告は稲岡隆明と稲岡壽を同一耕作単位として、両名の従前地の地積合計七五二一平方メートルに対し、三一二平方メートルも多い七八三三平方メートルの一時利用地を指定している。

④ 右の不公平な結果は、原告らを同一耕作単位として、仮に原告山本に仮地番一二七番区画(二七二七平方メートル)、原告長谷川に同一二八番区画(二五四九平方メートル)を指定し一時利用地を全体として扱つてみても、原告ら両名の一時利用地の交付基準率を九一パーセントとして計算すると、原告ら両名の一時利用地の地積はなお二八一平方メートル不足し、同不足地積は前記換地設計基準許容面積以上となるので、前記のとおりこれを仮地番一二六番区画又は同一三二ノ三番区画より分割指定されなければ、前記換地設計基準の調整許容範囲内の面積以上に指定地積が不足するのみならず、面積照応の原則にも、著しく反することになり、原告らは本件指定処分により著しい不利益を受けることには変りはない。

4  被告は、原告らは同一耕作単位をなしているので、原告らを全体的に評価して本件処分をしたもので全体的にみると違法、不当なところはない旨主張するが、同一耕作単位であつても所有権は別個であるから、原則としては各別に評価処理すべきである。ただ、全体的評価が共同耕作者によつて承認された場合にのみ、例外的に便宜上一定の限度で全体的評価処理が許容されるにすぎない。しかし、その場合でも、全体の中に不当、違法な処分があり、それが全体的にみても著しいときは、全体の処分が取り消されるべきである。

右のような観点からみても、原告山本に対する本件処分は明らかに不当、違法であり、原告長谷川に対する本件処分は原告山本に比べてその違法性、不当性は軽減されるが、換地面積が基準に相当不足するから結局不当、違法である。

5  よつて、被告が原告らに対してした本件各処分は取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2は認める。

2  請求原因3について

(一) 同冒頭の部分は争う。

(二) 同(一)は否認又は争う。なお、志方地区第一一工区の工事は昭和五四年一一月一日に着工して昭和五六年五月二〇日に完了し、また、補完工事は昭和五六年一二月一〇日に完了したものである。

(三) 同(二)は否認又は争う。なお被告が志方土地改良区に一時利用地指定案の作成を委託したのは、県営圃場整備事業の工事施行区域が広範囲でしかも高度の技術を要するため、被告が直接施行監督はするが、換地業務立案実施については、農用地の集団化等耕作条件の改善を図ることが必要であるので、地域の実情に明るい同土地改良区に一時利用地指定案の作成を委託実施するほうが合理的であるからである。

(四) 同(三)の冒頭部分は争う。同(1)は原告ら主張の設計基準は法律上必要不可欠とされ法律に根拠を有する法令上の基準であるとの主張は争いその余は認める。同(2)は認める。同(3)ないし(5)は争う。なお、原告らは原地指定処分が相当である旨強調するが、安易な原地換地は農用地集団化を阻害するのみならず、権利者相互間の調整も困難となるので、同一圃区内であれば利用条件等同一であり実質的にみて不利益はないとの理由で一区画ずらし、しかも原告らを同一耕作単位と評価し同一二八番区画、同一二九番区画を指定して集団化を図つたものであり、原告らをことさら不利益に取り扱つたものではない。加えて、原告長谷川は百姓が本職ではなく、原告山本も教職についていて百姓の経験がないのであるから、従前地に対する愛着心を問題とすること自体不自然である。

(五) 同(四)の冒頭の部分は争う。同(1)のうち原告長谷川に仮地番一二八番区画を指定したことは認め、その余は否認又は争う。同(2)のうち仮地番一二六番区画は「二四三一平方メートル」、仮地番一四四番ノ三区画は「八八一平方メートル」、合計「三三一二平方メートル」と訂正したうえで長谷川嚴に仮地番一二六番、一四四番ノ三区画を一時利用地として指定したこと、被告は同一耕作単位として長谷川嚴、松野松治、長谷川健次郎三名に対し原告ら主張の指定をしたこと、被告は稲岡隆明、稲岡壽を同一耕作単位として原告ら主張の指定をし稲岡隆明は仮地番一三二ノ三番区画の指定を受けたこと、稲葉秀治は原告ら主張の指定を受けたことは認め、その余は否認又は争う。

3  同4及び同5は争う。

三  本件各処分の適法性

被告の原告らに対する本件各処分は以下に述べるとおり、適法であるから、原告らの主張は理由がない。

1  土地改良法八九条の二第六項違反の主張について

本件各処分は、同条項にいう「土地改良事業の工事のため必要がある場合」に該当し、原告らの主張は失当である。

右の「土地改良事業の工事のため必要がある場合」とは、直接に工事の対象となつた従前の土地のみが指定・停止の必要があるというのではなく、工事の対象となつた土地の一時利用地を指定するため、その近隣の土地について順次に一時利用地を指定する必要がある場合を含み、さらに、「土地改良事業の工事のため必要がある場合」には、土地改良事業の工事施行上の必要から行う場合、すなわち、これから工事をするために必要がある場合ばかりでなく、土地改良施設工事や区画形質の変更工事のために従来の耕作が継続できなくなつた場合にこの耕作を継続する必要がある場合も含むと解すべきである。

そうすると、本件各処分は従来の耕作が中断されることを防ぎ耕作を継続させ、もつて、権利者の使用収益権を保護するために行つたものであるから、同条項の規定による「土地改良事業の工事のため必要がある場合」に該当するものである。

なお、本件各処分は、換地処分公告までを法定存続期間とする暫定的な処分にすぎず、原告ら主張のような換地予定地的処分ではない。一時利用地としての指定地が、結果として換地と重なる場合があるのは、一時利用地指定処分を行う実体的要件と換地処分を行うための法律要件が同じであるからにすぎない。

2  一時利用地指定案の作成手続が不公正であるとの主張について

志方土地改良区における一時利用地指定案の作成手続は、適正に行われたものであり、被告は一時利用地指定案図及び一時利用地指定通知案を慎重に審査検討し、法律の基準に照らし適当と認め本件各処分を行つたもので、被告の行つた本件各処分は適法である。

被告は、土地改良事業に係る換地事務処理体制を確立し、公正かつ適正な一時利用地指定案が作成されるよう濃密な指導を行つている。すなわち、被告は換地専門員制度を設け、主任換地専門員を配し、もつて県内換地事務を所掌させ、適正な換地事務指導を行つている。さらに、被告の地方機関各土地改良事務所等においても、換地専門員や土地改良法五二条四項にいう土地改良換地士の資格を有する者を配して、換地事務の適正な処理が行えるよう指導体制の確立を図つている。

また、被告は、一時利用地指定案の作成を委託した志方土地改良区の換地事務担当者及び換地委員らについても、適正な換地事務が行えるよう講習会等を通じて指導を行つている。

右のような体制下において、大沢地区に係る一時利用地指定案が、地元換地委員らによつて、昭和五五年六月一四日、地元大沢部落の公民館において発表されたのち、志方土地改良区から被告あて一時利用地指定案図及び一時利用地指定通知案が答申された。被告は、それらを審査検討し、法律の基準に照らし適当であると認めたものである。

従つて、原告らの右主張は事実に反し失当である。

3  換地設計基準に違反しているとの主張について

(一) そもそも、一時利用地指定処分を行う場合には、換地設計基準に合致していることがその適法要件であるという規定は何ら存していない。従つて、本件各処分、特に原告山本に対する処分は、志方土地改良区第一一工区の換地設計基準(原告らは「大沢地区」と主張しているが「第一一工区」が正しい。)に違背した一時利用地指定案により行つた違法な処分であるとの原告の主張は、主張自体失当である。

なお、換地設計基準は、事業採択の前年度に、地元農家の意向調査等を参照のうえ、その地区の実態に即し、換地計画の樹立を適正かつ円滑に行うことを目的として作成される権利者相互間のいわゆる事実上の調整基準にすぎず、法令上の基準ではない。

他方、原告らの主張する土地改良法五二条の五第一号にいう換地計画において定める換地設計とは、土地改良法施行規則(昭和二四年農林省令第七五号)四三条の四にいう現形図及び換地図を作成して定められるものであり本件設計基準とは異なる。

従つて、換地設計基準が法令上に根拠を有する法令上の基準との原告らの主張は、誤りである。

(二) 本件各処分は、たとえ換地設計基準どおりに行われていない部分があつたとしても、以下に述べるとおり合理的根拠に基づきされたものであるから、原告らの公平、平等の原則に違反するとの主張は失当である。

(1) すなわち、換地設計基準は、地元各権利者の権利を調整するために作られた基準であるが、事柄の性質上、すべての権利者に対し同基準を満たした場合は、農用地の集団化の目的を阻害する場合が出てくる。そこで、そのような場合は、同基準の趣旨に従いながらも、一部の者に対し基準に適合しない処分を行わざるを得なくなつてくる。

本件の場合も、原告山本に対し仮地番一二七番区画を指定したならば、大沢地区における分割田が多くなり農用地の集団化の目的を阻害することになる。そこで、右分割田を解消し、農用地の集団化の目的を達成するため、原告山本に対し、従前地の最大団地の近隣区画である別紙図面四の仮地番一二九番区画を指定したものである。

ところで、本件各処分は、そもそも、原告らが親子で同一耕作単位であることから、同一耕作として評価して従前地との照応性を図り、一団地に集団化するために、原告山本には、仮地番一二九番区画を、原告長谷川には、仮地番一二八番区画をそれぞれ指定したものである。

特に、原告山本に仮地番一二九番区画を指定した理由は、同区画が仮地番一二七番区画と同一圃区内にあり、従つて地力、水利、排水等の自然条件や農道、通作距離等の利用条件に差がなく、原告山本に対し実質上の不利益を与えていないと判断したからである。

(2) 原告らは、被告主張のように農用地集団化の徹底を図るのであれば、他に分割田をなくする方法があるのに、それをしていないのは、原告らに対してのみ、農用地集団化の目的を厳しく要求したもので、原告らに対する本件各処分と比較して不公平であると非難しながら、その具体的方法について具体的な主張をしていないけれども、本件に即してみると、原告らの主張は、要するに、長谷川兼治に対する指定地仮地番一二二ノ一番区画と稲岡壽に対する指定地仮地番一三三ノ一番区画、稲岡隆明に対する指定地仮地番一三三ノ二番区画を入れ替えれば、仮地番一三三番区画は分割田とならず、そして、稲岡正義に対する指定地仮地番一二二ノ二番区画を仮地番一二二ノ一番区画に指定すれば、仮地番一二一、一二二ノ二番区画は、稲岡隆明ら同一耕作単位で一団地となること、また、稲岡正義に対する指定地仮地番一二二ノ二番区画と長谷川兼治に対する指定地仮地番一三一番区画とを入れ替えると、仮地番一二二番区画は分割田でなくなることの主張に帰するようである。

しかしながら、長谷川兼治に対する指定処分は、二〇筆一〇団地と散在していた従前地が四筆四団地に集団化され、その際、各仮地番区画が指定された理由も以下のとおり合理的なもので、原告らの主張はいずれも失当である。

すなわち、①仮地番一三一番区画に指定されたのは、従前地六一三、六一四、六一五ノ一番地の一団の土地が県道沿地にあり、県道沿地は地価も高いため、指定地も県道沿地に指定するのが合理的であつたこと、②仮地番一二二ノ一番区画に指定されたのは、従前地六九一、七〇二、七〇〇番地が通称「どんど」という礫の多い区域にあるためであつたこと、③仮地番一三三ノ三番区画に指定されたのは、従前地七二七、五一七、六〇九番地及び同七二六、六〇八番地に対して選定されたもので、このように選定されたのは、仮地番一二三ノ一番区画の区域と仮地番一三三ノ三番区画の区域とは、地力の差があるため、それぞれの区域内で位置選定する方が合理的であつたことなどによるものである。

(3) なお、稲葉秀治が仮地番一二七番区画に指定されたのは、選定の最終段階で、後記のとおり、面積が照応するためである。

従つて、稲葉秀治に対する指定地は、従前地の位置(字小間田の区域に散在している。)を考慮すれば、字小間田の区域で集団化されるべきであるが、従前地の位置と面積の照応性を総合的に勘案して、最終的に仮地番一二七番区画に集団化されたものであり、特に稲葉秀治を有利に取り扱つたものでない。

4  土地改良法五三条一項違反の主張について

本件指定処分は、以下のようにいずれの点からみても照応の原則に違反するものではなく、適法である。

(一) 原告らの一時利用地指定処分

(1) 原告長谷川に対する一時利用地と従前の土地の地積の増減について、土地改良法施行規則附録の算式による算定を行うと地積増減の割合は5.4パーセントとなつて二割に満たないものであり、原告長谷川に対する本件指定処分は土地改良法五三条一項の要件を満たした適法な処分である。

(2) また、そもそも一時利用地の指定は、農用地の集団化の目的に従つて、同一耕作単位ごとに集団化し、経営の合理化に資するよう配慮して行うものであるところ、原告らは親子で同一耕作単位を構成しているから、原告らに対しては別紙図面四の仮地番一二八番、一二九番区画と一団の区画が指定されている。そして、このように同一耕作単位に対し一団の区画が指定された場合の地積の増減を評価する場合には、一人一人を各別に評価するのではなく、同一耕作単位を全体として評価すべきである。

そうすると、原告ら全体に対する換地交付基準地積は換地交付率九一パーセントで算出すると五五五七平方メートルとなり、一方一時利用指定地二筆の合計地積は五五三四平方メートルであるから、地積減二三平方メートルとなり換地設計基準に定める地積調整の範囲一〇〇平方メートル以内となる。

(3) 位置の選定についても、仮地番一二七番区画と仮地番一二九番区画は、同一圃区内にあり、自然条件、利用条件等は同じであるから、原告らに仮地番一二八区画、同一二九番区画を指定した本件各処分は、原告らの従前地に照応している。

また、仮地番一二七番区画からずらして同一二九番区画に原告山本を指定したのは、面積照応と集団化の目的のために行つたものであり、特に原告らを不利益に取り扱つたものではない。

(4) なお、原告山本主張の一時利用地指定案は、原告山本に仮地番一二七番区画を与えることを前提にした案であるが、これを前提にすると同原告主張の指定案のように分割田が生じ農用地集団化の目的に反することになる(原告らは仮地番一二六番区画は分割予定地と主張しているが、同一二六番区画はその東側の農道との路面差が相当あるために分割に適しない土地である)。

さらに、本件指定処分の方が原告山本主張の前記指定案より、両区画の田面差は少く、農耕の利用に便利であり、団地構成からいつても合理的である。

(二) 本件関係者らの一時利用地指定処分との比較

原告山本は、仮地番一二七番地区画を指定したうえ不足地積二八一平方メートルは同一二六番区画又は同一三二ノ三番区画から分割指定することが公平・公正な換地理論に適合するのみならず、面積の点よりみても照応の原則に適うと主張する。しかし、原告山本の右主張は農用地を分割しその集団化の目的に反するのみならず、面積照応の原則からみても以下に述べるとおり理由がなく失当である。すなわち、

(1) 仮地番一二六番区画は長谷川嚴に指定されているが、同人は松野松治、長谷川健次郎と同一耕作単位を構成するので、同三名についての一時利用地指定の地積の増減を評価するに、長谷川厳ら三名の従前地の地積合計は7118.10平方メートルであり、一時利用地の地積合計は七六六六平方メートルであるが、佐藤俊信はその従前地(小間田五八八番の一、同五六一番及び同五六二番の三筆の地積合計一〇一七平方メートル)を長谷川嚴に譲渡する旨合意しているので、長谷川嚴ら三名の従前地は右一〇一七平方メートルを加算した地積の合計8135.10平方メートルとして評価しなければならない。

次に、松野松治の一時利用地仮地番一二三番区画及び長谷川健次郎の一時利用地仮地番一一八ノ一番区画がいずれも湧水田であるために公共用施設としての排水路設置工事を行い、その敷地面積として同一二三番区画は六五平方メートル、同一一八ノ一番区画は六六平方メートルを要したので、右一時利用地面積から右一三一平方メートルの排水路敷地面積を控除する必要がある。

さらに、右一二三番区画及び右一一八ノ一番区画は不整形区画なので、条件差を総合的に勘案して、右一二三番区画は一五平方メートル、右一一八ノ一番区画は三〇平方メートルの合計四五平方メートルを差し引いて評価する必要がある。

従つて、右三名の実質的な地積増減は評価対象地積七四九〇平方メートルから換地交付基準地積(九一パーセント)七四〇二平方メートルを差し引いた地積増八八平方メートルとなり、換地設計基準に定める地積調整の範囲内面積一〇〇平方メートル以内となるので、仮地番一二六番区画より二八一平方メートルを原告山本に分割指定した方が面積においても照応の原則に合致する旨の原告らの主張は失当である。

(2) 仮地番一三二ノ三番区画は稲岡隆明に指定されているが、稲岡隆明と稲岡壽は同一耕作単位を構成しているから右両名の一時利用地を評価すると、従前地の地積は合計七五二一平方メートルであり、一時利用地指定地積合計は七八三三平方メートルである。

ところで、稲岡隆明は換地委員であるために将来地区の農業用施設用地に計画されている一時利用地仮地番一三二ノ三区画(三〇七平方メートル)を同人名義で一時利用地指定処分を受けた。従つて、右面積は同人らの一時利用地の面積から差し引いて評価しなければならない。

さらに、同人の一時利用地仮地番一五二ノ一番区画(四一四平方メートル)、同一一七ノ二番区画(二七平方メートル)及び同一五四ノ二番区画(二四二平方メートル)は、換地選定のために換地交付基準地積の算出に余裕をもたせたことから生ずる調整のための区画であり、これらの面積は、工事が完了した後に行う確定測量による地積の変動に活用するためのものであつて、同人が一時利用地として指定を受けたものではないが、便宜上、換地委員である同人名義に調整田として指定したものであるから、同人らの一時利用地の面積からこの面積を差し引いて評価されるべきである。

そうすると、稲岡隆明ら二名の評価対象地積は六八四三平方メートルとなり、右両名の一時利用地の実質的な地積増減は「評価対象地積」六八四三平方メートルから換地交付基準地積(九一パーセント)六八四四平方メートルを差し引いた地積一平方メートルとなるので、原告山本に対し仮地番一三二ノ三番区画を分割指定することが面積においても、照応の原則に適う旨の原告らの主張は、失当である。

(3) なお、稲葉秀治が仮地番一二七番区画に指定されたのは、照応の原則に適うためである。

すなわち、稲葉秀治の従前地は九筆五団地で合計三〇一一平方メートルとなり、換地交付率九一パーセントで計算すると換地交付基準面積は二七四〇平方メートルとなり、仮地番一二七番区画の地積は二七二七平方メートルであるから、地積減一三平方メートルとなる。

5  本件処分の適法性に関するその余の被告の主張

被告は、本件処分が正当であることの理由付けとして、さらに次の諸事実をも付加して主張する。

(一) 谷口恒雄に対する指定処分について

同人に対する指定処分は、用水路を拡幅する工事のため必要であつた敷地六七五ノ二番地(一三五平方メートル)を地区に編入したが、工事の結果、藪のまま残り、その藪地については指定をしておらず、最終的には従前地六七五ノ二番地は、地区除外されるので、同人の一時利用地が一四六平方メートル地積減とはならない。

(二) 谷口勇に対する指定処分について

同人に対する指定処分は、従前地七四四ノ二番地に対して仮地番一一四ノ二番地が指定されたものである。

(三) 公共用地(仮地番一三二ノ三番区画)について

仮地番一三二ノ三番区画は、公共用地として確保された用地であるが、同区画成立の経緯をみると、市道蕪谷線拡幅の際、蕪谷の農地が右拡幅用地として無償提供されたものの当該農地の登記簿上の地積については、地積更正がされなかつたところ、一時利用地指定処分を行うとき、無償提供地面積の半分の面積を丈量して公簿面積より控除し、従前地面積としているものである。

そして、この控除した無償提供地の面積の半分の合計が二八二平方メートルとなつており、これに対して公共用地三〇七平方メートルが蕪谷に近い仮地番一三二ノ三番区画で確保されたものであるから位置の選定については、右述の同区画成立経緯からして蕪谷の近くで確保されるべきものであり、このことは原告らも右無償提供の当事者の一人として了知しているところである。

(四) 稲岡壽、稲岡一郎、長谷川厳らに対する指定処分について

稲岡壽、稲岡一郎、長谷川嚴らが、仮地番一一五、一二〇、一二六番区画に指定されたのは、同一圃区内に従前地があつたためで、同人らを特に有利に取り扱つたものではない。

6  以上より本件各処分は適法であり、原告らの主張はいずれも理由がないから、棄却されるべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二本件各処分の適法性について

1  土地改良法八九条の二第六項違反の主張について

(一)  土地改良法八九条の二第六項は、一時利用地指定の要件として、農林水産大臣又は都道府県知事は、換地処分を行う前において、「土地改良事業の工事のため必要がある場合」又は「土地改良事業に係る換地計画に基づき換地処分を行うにつき必要がある場合」には、その土地改良事業の施行に係る地城内の土地について一時利用地を指定することができる旨定めている。

そして、一時利用地指定制度の趣旨、すなわち、土地改良事業施行地区内の土地について同工事を行うに当たり、土地の区画・形質を変更するのに要する期間内の土地の使用収益(耕作)の中断を最小限にして権利者の損害を少なくする趣旨から考えると、右「土地改良事業工事のため必要がある場合」とは、同工事に着手するために必要がある場合のみならず、既に工事に着手した後において、同工事の進行状況から、又は土地改良施設工事あるいは区画・形質変更工事等のため、従来どおりに土地の使用収益が継続できなくなつたが、なお右使用収益を継続する必要がある場合も、含むと解するのが相当である。

(二)  そこで、本件処分につき、右工事のため必要があるかどうかを検討する。

志方地区第一一工区の土地改良工事が昭和五四年一一月ころ着工されたことについては当事者間に争いがなく(被告は昭和五四年一一月一日と主張)、<証拠>を総合すると、右土地改良工事は昭和五六年五月二〇日に完成し、その後、補完工事としての排水路工事が昭和五六年一〇月二二日に着工され、同工事は同年一二月一〇日に完成したことが認められる。なお、原告は、昭和五五年六月には前記土地改良工事の大部分が完了した旨主張し、右主張に沿う証人稲岡巽の証言もあるが、同人の証言をもつてしてもそのころ前記土地改良工事の大部分が既に完了していたことがうかがえるにすぎず、工区全体の工事の完成さらには補完工事の有無等についてまでは明確な証言をしていないので、同証言は前記認定を左右するのに足りる証拠とはいえず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、本件各処分が昭和五五年七月三一日付で行われたことについては当事者間に争いがないので、志方地区第一一工区の土地改良工事が着工されたのちに、本件各処分がされたことになるが、右工事は、前述のとおり、本件各処分後約一〇か月間継続されたほか、その後さらに補完工事までも施工されたのであり、その間、権利者らの土地の使用収益(主として耕作)は中断されたが、他方権利者らは土地の使用収益を継続する必要性があつたことも明らかである。

してみると、本件各処分は、土地改良事業の施行に係る地域内の土地につき同工事のために同土地の使用収益ができなくなつたので、従来の使用収益が中断されることを最小限に防止し、もつて権利者の損害を少なくするために行われたものであるから、これが土地改良法八九条の二第六項所定の「土地改良事業の工事のため必要がある場合に行われた従前地に代わるべき一時利用地の指定処分」に該当するものと認めるのが相当である。

従つて、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(三)  なお付言するに、証人小国登志夫の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件各処分は、あくまでも換地処分公告までを存続期間とする一時的暫定的な処分にすぎず、換地予定的処分ではないことは明らかである。しかしながら、実際には、結果としてではあるが一時利用地指定地が最終的には、換地となることが多いことも否定できず、しかも、本件各処分のような一時利用地指定処分には、換地計画を前置していないので、この点においても被処分者に不利益になるのではないかとの危惧の念も否定できないが、右指定は土地改良法で規定する換地計画において定める事項の基準(土地改良法五二条三項、五三新一項等)を考慮して行うことが要請されている(同法八九条の二第八項、五三条の五第二項)ことのほか、その後に行われる換地処分自体は換地計画に基づいて行われることになり、その段階では同法所定の各手続によつて行うべきことが規定されているので、被処分者には実質的な不利益はないものと解される。

従つて、本件各処分に基づく一時利用地指定地が、結果として換地と重なることがあつたとしても、一時利用地指定処分自体は被処分者には右危惧の不利益を与えるものではないから、土地改良法八九条の二第六項の「工事のため必要がある場合」に該当するときは、被告は本件各処分のような一時利用地指定処分をすることも許されるものというべきである。

2  一時利用地指定案の作成手続が不公正であるとの主張について

(一)  <証拠>を総合すると、被告は県農林水産部農地整備課内において換地専門員制度を設け、主任換地専門員を配して土地改良法に基づき実施する圃場整備事業の換地業務全般及び国営、団体営に対する換地業務の計画策定とそれに対する指導等の事務を所掌させていること、被告の地方機関である土地改良事務所等においても土地改良法五二条四項所定の土地改良換地士の資格を有する者を配し、換地専門員の指導、補助のもとに換地事務が適正に処理できるような指導体制を確立していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

さらに、<証拠>を総合すると、被告が志方土地改良区に対し一時利用地指定案の作成を委託したこと、同土地改良区(当時の理事長は稲岡政八)は第一一工区のうちの大沢地区について同地区の一時利用地指定案の作成を理事であつた稲岡巽等に一任したこと、右一時利用地指定案を作成するにつき基準となるべき換地設計基準の作成については、被告側の数回にわたる研修、講習などによる指導のもとに右稲岡巽、志方土地改良区の換地委員長長谷川嚴及び同稲岡隆明らが中心となり、一時利用地指定の対象となる農家の意見を聞き入れ、かつ大沢地区の現地の事情を十分に斟酌して作成したこと、具体的な一時利用地指定案作成については、右長谷川嚴及び稲岡隆明らが中心となつて選定作業を進め、原則的には右換地設計基準に準拠し、他方、右基準どおりにいかなかつた部分については農用地の集団化の目的と従前地との照応性をできるだけ達成できるように配慮して行つたこと、このようにして出来上がつた一時利用地指定案を昭和五五年六月一四日ころ大沢地区の公民館において公表したのち、志方土地改良区から被告に対し右指定案が答申されたこと、被告は右答申を尊重して本件各処分をしたことなどの事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  以上のような事実によると、まず、換地設計基準の作成手続においては、被告側は換地専門員制度を設け換地事務が適正に処理できるような指導体制を確立し、換地設計基準の模範例をもとに志方土地改良区の理事、換地委員等を指導し、最後には一時利用地指定の対象となる土地の所有者・耕作者等の意見を聴取したうえ、本件換地設計基準を作成したのであるから、その作成手続面においては不公正な手続のもとになされたものとはとうてい認められない。この点について、仮りに、原告主張のように志方土地改良区の定款等に換地委員会で換地設計基準を作成することが要求されていながら換地委員会を開催しなかつたとしても、前記のとおり被処分者らに意見陳述の機会を与えている以上被処分者にとつて不公正な手続をしたとまで断定することはできない。

次に、一時利用地指定等の作成手続において、前記換地委員であつた長谷川嚴及び同稲岡隆明らが中心となつて前記換地設計基準を尊重しながら具体案を何度もねり直したうえ本件一時利用地指定案を作成して志方土地改良区の事務局に提出したのち、被告は右指定案どおりの一時利用地の指定をするに至つたこと、本件各処分の内容が後述のとおり違法とはいえないこと、そして、志方土地改良区として被告から委託された一時利用地指定案を答申し、また被告において同指定案に基づき行政処分を行う際は、被告は三木土地改良事務所に対し提出された一時利用地指定案を法定の手続の下に公正かつ公平に作成されたものかどうかを手続面のみならず内容面からも慎重に審査検討することが前記換地専門員制度のもとで体制的に確立されているので、たとえ被告において志方土地改良区から答申された一時利用地指定案をそのまま実施したとしても、志方土地改良区及び被告においてそれぞれ所定の手続を経たうえ本件各処分に至つたものと推定する(同推定を左右するに足りる事情もうかがえない)ことができる。

してみると、本件一時利用地指定案の作成手続が法定の手続によつてされていないので不公正である旨の原告らの主張は、理由がないものといわざるをえない。

3  換地設計基準に違反しているとの主張について

(一)  <証拠>によれば、本件も含め一般に実務上採用されている換地設計基準は、対象権利者(農家)に対して実施したアンケート調査の結果を踏まえたうえ作成されるもので、権利者間のアンケート結果を調整して一時利用地の選定作業を行うために作成する事実上の調査調整基準にすぎず、これが法令上の根拠を有するものではないことが認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。そして、土地改良法上、一時利用地指定に際し、換地設計基準を設定し同基準に基づいて選定作業を行うことを定めた規定は見られない。

ところが、原告は、土地改良法が換地計画において換地設計を定めるよう規定している(同法五二条の五第一号)ことを根拠に、換地設計基準には法令上の根拠がある旨主張する。

しかし、そもそも換地設計は、換地計画において必要とされるもので、しかも現形図及び換地図をもつて作成すべきものとされている(同法施行規則四三条の四第一項)こと、換地設計を適正かつ円滑にするためにはその前提として換地設計基準を必要とするが、法は従前地の用途・地積・土性・水利・傾斜その他の自然的利用的諸条件が多種多様に及ぶことを考慮して、換地設計基準については土地改良事業者の適正な施行を期待し、ただ、その適正施行については他の方法で規制し、換地設計のみを明文化し、その設計基準の明文化を避けていること、一時利用地指定にはそもそも換地計画を前置していないこと、本件処分においては右換地設計基準とは取り扱いを異にするものとして現形図及び換地図が作成された形跡がうかがえないことなどからして、原告主張の換地設計(土地改良法五二条の五第一号)を根拠として、本件換地設計基準も法令上の根拠を有するものと解することはできない。

してみると、本件各処分が本件換地設計基準と異なるところがあつたとしても、本件換地設計基準は本件一時利用地指定処分の適法要件とはなつていないので、これが直ちに違法と解することはできず、この点に関する原告らの主張は、主張自体失当である。

(二)  ところで、換地設計基準について、一時利用地指定の被処分者(対象農家)の意見を聞いたうえ、権利者の財産権の保障、農用地集団化の目的、権利者間の公平平等の原則を十分に配慮して一般的抽象的基準としてではあるが適正妥当なものとして作成された以上、同基準を尊重遵守すべきことは当然のことであつて、同基準と異なつた一時利用地指定処分を行うことは一部の被処分者を他と比較して不利益に扱うことにもなり、ひいては平等、公平の原則に相反することになるので、合理的根拠がない限り許されないものと解するのが相当である。

そこで、右換地設計基準と一部異なる指定をした本件各処分が合理的根拠に基づいて行われたものかどうかについて、検討する。

<証拠>を総合すれば、志方土地改良区第一一工区の右換地設計基準によるかぎりでは、原告山本と仮地番一二七番区画の指定を受けた稲葉秀治とを比較した場合原告山本に同一二七番区画の指定を受けるべき優先順位があり、しかも原告山本より優先して同指定を受けるべき該当者もいなかつたので、特段の事情がない限り、原告山本は希望した同指定を受ける者に該当することが一応認められる。そして、前掲証拠によれば、位置選定過程において原告ら主張のような配分指定も検討されたことが認められる。しかしながら、以下に挙示の証拠も総合して考えると、本件各処分は合理的根拠に基づいて行われたものと認めるのが相当である。

仮地番一二七番区画を原告山本に指定せずに同区画を原告山本より後順位の稲葉秀治に指定し、原告ら(同一耕作者単位として)に対し仮地番一二八番及び一二九番の各区画を指定した経過は、次のとおりである。

すなわち、<証拠>を総合すれば、原告らの従前地の合計面積が六一〇七平方メートルで換地交付率九一パーセントにより算出すると原告らの一時利用地の合計面積は五五五七平方メートルどなること、右換地設計基準に基づき仮地番一二七番区画(二七二七平方メートル)及び同一二八番区画(二五四九平方メートル)を指定すれば右両区画の合計面積が五二七六平方メートルとなり、原告らに対し指定すべき地積五五五七平方メートルより二八一平方メートルも減少すること、同二八一平方メートルは前記換地設計基準に定める地積調整許容面積(一〇〇平方メートル)をこえること、従つて、原告らに対しさらに右不足面積相当分の一時利用地を確保指定することとなるといずれの区画を指定するとしても小間切れの分割田を作り出す結果となり農用地の集団化という本件事業目標に反する結果となること、原告ら主張の仮地番一二六番区画及び同一三二ノ三番区画は原告ら主張のように当初より分割が予定された分割田とは認められないこと、ところが、同一圃区内の仮地番一二八番及び同一二九番区画(二九八五平方メートル)を原告らに指定すれば、右両区画の合計面積が五五三四平方メートルとなり原告らに指定すべき五五五七平方メートルに比較して二三平方メートル不足するにすぎないこと、同一二九番区画は原告山本の従前地の最大団地の近隣区画であること、原告らは親子で同一耕作単位でありしかも原告長谷川は同一二八番区画の指定自体はこれを不満とすべき事情もなかつたこと、そこで農用地を一団地に集団化するために、原告山本には同一二九番区画を原告長谷川にはその隣接区画の同一二八番区画をそれぞれ指定したこと、仮地番一二七番区画を同一二九番区画に振り替えたとしても同一圃区内であることから水路利用、通作距離等耕作条件、地質等の自然条件もほとんど同一で、地価においても見るべき差異もうかがえないこと、むしろ、仮地番一二八番区画と同一二九番区画の間に耕作道が設けられ、土地の標高差も仮地番一二七番区画と同一二八番区画との差(五二センチメートル)より同一二八番区画と同一二九番区画との差(二七センチメートル)の方がより少なく耕作しやすいことが認定でき、右認定を左右するに足りる証拠はない。

他方、仮地番一二七区画を稲葉秀治に指定した事情は、<証拠>を総合すると、稲葉秀治の従前地は九筆五団地で合計面積三〇一一平方メートルとなり、換地交付率九一パーセントで計算すると換地交付基準地積は二七四〇平方メートルとなるところ、被告主張のように従前地の位置と面積の照応性(地積減一三平方メートルにとどまる)を勘案して、最終的には仮地番一二七番区画に一時利用地を集団化して指定したことが認められ、同認定を左右するに足りる証拠もない。

そして右事実によれば、本件各処分は原告ら主張の換地設計基準に反するけれども、原告ら及び稲葉秀治の従前地の地積、土質、水利等の自然条件及び利用条件、さらに価額などを考慮してこれを一時利用地に照応させながら、他方、大沢地区全体の農用地改良事業推進のために農用地の分散分割を阻止しその集団化を推進する目的のもとにされたものであることがうかがえるので、原告山本に対し前記換地設計基準どおりに仮地番一二七番区画が指定されなかつたとしても右のような経緯事情による限りでは、これが違法と解することはできない。

(三)  原告山本は、仮地番一二七番区画を指定せずに同一二九番区画を指定することは、他の被処分者と比較し原告山本には著しい不利益を与えるもので、本件処分はその点においても不公平、不平等である旨主張する。そこで、以下に検討する。

(1) まず、原告山本主張の通作距離については、なるほど<証拠>を総合すれば、仮地番一二九番区画の方が同一二七番区画に比較し約二倍の通作距離(約一〇〇メートル)になつていることが認められるが、他方、右各区画が同一圃区内であること、通作距離が二倍になつたとはいえ原告らの住居地から仮地番一二九番区画までの通作距離は僅か約一〇〇メートル(通作距離の増加分は約五〇メートル)にすぎないことも認められる。ところで、従前地に替えて一時利用地指定を行う以上は原地指定でない限り、通作距離が変わつてくるのは当然であるから、右通作距離約五〇メートルが増加したことを理由に本件各処分は原告山本を特に不利益に取り扱つたものとは、とうてい認められない。

(2) 次に、<証拠>によると、仮地番一二八番区画と同一二九番区画との間に耕作道が存在することが認められ、これがために原告ら主張のように農作業が中断され耕作に不便な面があることも否定されないとしても、本件処分により農用地が全体としては集団化しており、とりわけ同一二八番区画及び同一二九番区画の面積は可成り広い区画となつているので、従前地のように数か所に分散所在した農用地を耕作する不便に比べれば、さほどの不便とはいいえず、他方、耕作道があることによつて原告らに利益となる面のあることも否定できないので、これらを総合考慮すると、この点においても原告山本を特に不利益に取り扱つたということはできない。

(3) 第三に、原原らは幹線道路沿の仮地番一二七番区画の方が支線道路沿の同一二九番区画に比べて地価が高いので、同一二七番区画に比べて同一二九番区画の指定は不利益である旨主張するが、前記乙第一及び第二号証並びに弁論の全趣旨によると、なるほど原告ら主張のように幹線道路沿の農地が一般的には地価が高いことは否定できないが、仮地番一二九番区画の北側にも道路が通つていること、県道にはむしろ仮地番一二九番区画の方が同一二七番区画より近いこともうかがわれ、両区画の地形位置状況を総合的に考慮すると、必ずしも仮地番一二七番区画の地価が同一二九番区画の地価より高いとは断定できず、(これを認めるに足りる証拠はない)、この点においても原告山本に不利益に取り扱つたものとは認められない。

(4) 最後に、原告ら主張の精神的苦痛の点についてみるに、農用地の改良、開発及び集団化を実施し、もつて農業の生産性の向上、農業総生産の増大等の公益目的を達成するためには、各権利者が各愛着の深い土地に固執していてはこれが実現しえないところであり、同公共事業の推進という大局的見地からは愛着のある農用地を手放すことも忍受せざるをえない(土地改良事業の施行には不可避なこと)ところである。この点は、原告らのみならず本件一時利用地指定処分を受けた農家の殆んどの者(原地指定者以外)が同様に忍受しているところであつて、原告らにとつてのみ特に不利益に扱つたものとはいえない。

以上のように、原告山本に仮地番一二七番区画を指定せずに同一二九番区画を指定した本件処分は、同原告主張のような事情を考慮しても、農地の改良開発とその生産性の向上という前記公益目的の推進のために忍受すべき限度を越えた不利益(大局的にみれば同事業の推進により利益を受けるところも大きい)を原告山本のみに強いたものとはいえないのでこの点に関する原告らの右主張は、いずれも理由がなく採用できない。

なお、原告らは、仮地番一二七番区画を原告山本に指定しなお不足地積二八一平方メートル分については同一二六番区画の一部ないし同一三二ノ三番区画の一部を分割指定することが合理的であり、しかも公平、平等の原則にも適い公正妥当な指定処分といえるのに、同指定を行わずに本件各処分をしたのは著しい不当処分であつてこれが違法は処分として取り消されるべき旨主張するが、同主張は本件各処分の当、不当の主張にはなりえてもこれが直ちに違法性の主張とはなり得ないのみならず、同主張は原告山本に同一二七番区画と指定することを当然の前提としているが、これが相当でないことは前述のとおりであること、原告山本主張の同指定案によると同一二六番区画又は同一三二ノ三番区画に二八一平方メートルの小分割田をつくることになり(同区画は原告山本主張のように分割田予定区画とはいえない)農用地の集団化という本件土地改良事業推進の目的を阻害するもので相当でないこと、原告山本に同一二七番区画を指定し右指定不足分二八一平方メートルを原告ら主張の権利者らの指定地から分割して指定することが面積照応の原則からみても相当である旨の原告らの主張は後記のとおり理由がないものであることなどからみて、本件各処分が原告ら主張の指定案と比較し是認できない不当なもの(違法)とは、とうていいえない。

(四)  原告らは、一時利用地指定処分は被処分者の財産権の保障、農用地の集団化の目的達成、被処分者間の公平平等の原則の三大要請を調和してされなければならないが、本件各処分は本件被処分者とりわけ長谷川兼治に比較し原告らに対し農用地集団化の要求をより厳しく要求しているので不公平、不平等な取り扱いであり、これが違法である旨主張するので検討することとする。

<証拠>によれば、図面上は、原告ら主張のように、①長谷川兼治に仮地番一三三ノ一、二番区画を、稲岡正義に仮地番一二二ノ一番区画を、同一耕作単位である稲岡壽及び稲岡隆明に仮地番一二二ノ二番区画を指定すれば、仮地番一三三番区画は分割田とはならず、しかも仮地番一二一番区画、同一二二ノ二番区画は模岡隆明ら同一耕作単位で一団地となること、あるいは、②長谷川兼治に仮地番一二二ノ二番区画を、稲岡正義に仮地番一三一番区画を指定すれば、仮地番一二二番区画が分割田でなくなることもうかがえ、右の範囲内でしかも小分田の分散防止という観点に限つてみれば、一つの指定案として検討考慮の余地のあることも否定できない。

しかしながら、<証拠>を総合すると、長谷川兼治に対する一時利用地指定処分は、次のような事情で行われたことが認められる。

すなわち、まず、長谷川兼治に仮地番一二二ノ一番区画を指定した理由は、従前地(六九一、七〇〇、七〇二番地)が、通称「どんど」といわれ砂利が多く、かつては冠水に何度も会つたことのある地力、土質等自然条件の劣る地域(仮地番一二〇番ないし一二三番区画付近から北側の地域)に所在しているので、原告ら主張のように仮地番一二二ノ一番区画と収益力の大きい仮地番一三三ノ一、二番区画とを入れ替えることは、照応の原則に反するものといわざるをえない。

次に、稲岡隆明らに仮地番一三一番区画を指定した理由は、①仮地番一三一番区画に、従前地(六一三、六一四、六一五ノ一番地)が所在すること、②同所が県道沿で地価が高いこと、③長谷川兼治は仮地番一二二ノ二番区画の指定には強く反対していたことなどによるものである。

以上からして、長谷川兼治に仮地番一二二ノ一番区画を指定したのは照応の原則からであり、また、仮地番一三一番区画を指定したのは、その選定作業の経過にいささか配慮に欠けた面があつたことも否定できないが、従前地が同所に所在したこと、長谷川兼治については二〇筆一〇団地の従前地が四筆四団地に集団化され、原告らについては一〇筆六団地の従前地が二筆一団地に集団化された結果などから判断して、右位置選定結果が著しく不当で違法とまではいえないのみならず、長谷川兼治に比較して原告らに対し農用地の集団化を特に厳しく要求しているとまではいえず、従つて原告らを長谷川兼治に比較し、不平等に取り扱つたとはいえない。

4  土地改良法五三条一項違反の主張について

(一)  土地改良法五三条一項三号、同法施行規則四三条の七によれば、同規則附録の算式(Oは従前地の地積、Sは一時利用地の地積)により算定した従前の土地の地積に対する、一時利用地指定地積の増減割合が二割にみたないようにすることが要求されており、右に反する一時利用地指定処分は原則として違法と解するのが相当である。

(二)  ところで、本件一時利用地の指定は、農業の生産性を向上させるために農用地集団化の目的に向けて行い経営の合理化をはかるべきものであるから、権利者ごとではなく同一耕作単位ごとに集団化して行うことが望ましいことは言うまでもないところである。従つて、同一耕作単位に対し一団の区画が指定された場合の前記地積の増減は各人ごとに判断するのではなく、同一耕作単位ごとに判断するのが相当である。

これを本件についてみるに、原告らの従前地の地積合計が六一〇七平方メートル(原告山本は三一四四平方メートル、原告長谷川は二九六三平方メートル)、一時利用地の地積合計が五五三四平方メートル(原告山本は二九八五平方メートル、原告長谷川は二五四九平方メートル)であることについては当時者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、志方地区県営土地改良事業第一一工区大沢地区の従前地の地積合計が一一万四四七五平方メートル(少数点以下切捨て。)、一時利用地の地積合計が公共用地である集荷所三〇七平方メートルを減じた一〇万五三九五平方メートルであること、大沢地区の換地交付率については余裕率一パーセント以内と定められていること、前記換地設計基準による地積調整許容面積は一〇〇平方メートル以内とされていることが認められる。そして、これらの事業に基づいて前記地積の増減及び同増減率を検討すると、次のことが明らかとなる。

(1) 原告らの従前地の合計地積は六一〇七平方メートル、一時利用地の合計地積は五五三四平方メートル、換地交付率九一パーセント(大沢地区全体の換地交付率は約九二パーセント(全体の従前地の地積に対する一時利用地の指定地積の割合)のところ前記余裕率一パーセントを減じたもの)による一時利用地の基準指定地積合計は五五五七平方メートルとなるので、地積減は二三平方メートルとなる。そして、同地積減二三平方メートルは、前記換地設計基準に定める地積調整内面積(一〇〇平方メートル)にとどまつている。

(2) 次に、右の地積の増減を前記規則附録の算式により、従前地の地積に対する一時利用地の地積の増減の割合で算出すると

(地積減の割合)

となり、地積減少の割合が約1.5パーセントにすぎず、法定の二割に満たないことが明らかであり、本件各処分は土地改良法五三条一項三号の要件を満たした適法な処分ということができる。

(3) 仮に、前記地積の増減につき各人ごとに判断するとしても、原告山本に対する一時利用地と従前の土地の地積増減の割合は、前記と同様の方法で算出すると

(地積増の割合)

で、地積増の割合が約三パーセントとなる(換地交換率九一パーセントの割合による一時利用地の基準指定地の地積より一二四平方メートル多く指定されたため)。また、原告長谷川に対する一時利用地と従前地の地積減の割合は、前記同様の方法で算出すると

(地積減の割合)

となり、地積減の割合が約6.5パーセントとなり、前記同様に満たないことが明らかであるから、原告長谷川のみを基準に判断したとしても本件各処分は土地改良法五三条一項三号の要件を満たした適法な処分ということができる。

5  本件関係者らに対する各一時利用地指定処分が同人らを特に有利に取り扱つたとの原告らの主張について

(一)  稲岡壽についてであるが、<証拠>を総合すれば、同人の従前地が女郎田六八三、六八五、六八七ないし六八九番地及び奥山五一三、五一四番地でその地積合計が三〇八二平方メートルであること一時利用地が仮地番一三三ノ一、一一五番区画地でその地積合計が二八〇九平方メートルである(換地交付率九一パーセントの割合による一時利用地の基準指定地積より五平方メートル増、前記算式による地積増減の割合は1.1パーセント減(換地交付率九二パーセントにより増減を決めたため)となる)こと、一時利用地の大半を占める仮地番一一五番区画(二五八二平方メートル)は従前地のうちの女郎田の各農用地付近に所在していること、の各事実が認められるのみならず、同人の換地設計基準による指定順は原告長谷川自身も正当と自認していることがうかがえるので、これらの事実によると、稲岡壽を特に有利に取り扱つたとは認められない。

(二)  稲岡一郎についても同様であり、<証拠>を総合すれば、同人の従前地が門垣内六二五、六三九番地、女郎田六九七、六九八、七四一、七四二番地、室間三九八、四〇〇、四〇一、四一二番地、奥山五〇五、五一五番地でその地積合計が五七〇七平方メートルであること、一時利用地が仮地番一二〇、一二四番区画でその地積合計が五一八二平方メートルである(換地交付率九一パーセントによる基準一時利用地指定地積より一一平方メートル減、前記算式による地積増減の割合は約1.4パーセント減)こと、仮地番一二〇番区画は従前地のうちの女郎田の各農用地付近に、仮地番一二四番区画は従前地のうちの奥山の各農用地付近にそれぞれ所在していることの各事実が認められ、原告長谷川において、稲岡一郎の換地設計基準に基づく指定順は正当として争わないことがうかがえるので、稲岡一郎を特に有利に取り扱つたとはいえない。

(三)  長谷川嚴について、原告らは長谷川嚴に対しては、換地交付基準地積の倍近い地積の土地が一時利用地として指定されている旨主張する。なるほど、<証拠>を総合すれば、従前地である女郎田六九九、七一〇番地(地積合計一八六六平方メートル)に対し、仮地番一四四ノ三番区画(八八一平方メートル)及び同一二六番区画(二四三一平方メートル)の三三一二平方メートルに及ぶ一時利用地が指定されており、一見して一時利用地の地積が異常に多いことが明らかである。

しかしながら、長谷川嚴は原告らも認めるように松野松治及び長谷川健次郎と同一耕作単位を構成しているのであるから、右三名を一体として地積の増減を評価する必要がある。すると、<証拠>を総合すると、右三名の従前地の地積合計は7118.10平方メートルであり、一時利用地の地積合計は七六六六平方メートルであることが認められるが、以下の事情を考慮するならば、長谷川嚴を特に有利に取り扱つたとはいえない。

すなわち、<証拠>を総合すれば、長谷川嚴は佐藤俊信から昭和五五年九月一日付土地売買契約において仮地番一四四ノ三番区画(八八一平方メートル)を本登記段階において購入する旨の契約を締結し、代金をすでに支払つていること、佐藤俊信の従前地小間田五五八ノ一番地(四五九平方メートル)、同五六一番地(二九二平方メートル)、同五六二番地(二六六平方メートル)に対しては一時利用地が指定されていないこと、松野松治に対する仮地番一二三番区画(二七七平方メートル)及び長谷川健次郎に対する一一八ノ一番区画(一五七八平方メートル)はいずれも湧出田であるため、排水路設置工事を行つたこと、従つて右両区画を指定するに際しては排水路敷地面積一三一平方メートル(右両区画合計分)を加えて指定したこと、右両区側はいずれも区域の両端に所在しそのため隣接地との境界が不整形な形状となつていることの各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によると、まず佐藤俊信の前記従前地(地積合計一〇一七平方メートル)を長谷川嚴の従前地に加算する必要がある。次に、仮地番一二三番区画、同一一八ノ一番区画は、排水路敷地面積をも加算して指定されたことから右両区画の地積合計から排水路敷地面積(一三一平方メートル)を差し引かなければならない。すると、長谷川嚴、松野松治及び長谷川健二郎らの従前地の地積合計は八一三五平方メートルとなり、一時利用地の地積合計は七五三五平方メートルとなる。そして、右従前地の地積合計八一三五平方メートルに対する換地交付基準地積(九一パーセント)七四〇二平方メートルに対し、一時利用地の地積合計七五三五平方メートルは一三三平方メートルうわまわることとなり、換地設計基準に定める地積調整の範囲一〇〇平方メートルを三三平方メートル超える結果となる。ところが、仮地番一二三番区画と同一一八ノ一番区画が不整形な農用地であることから、被告において、その条件差を総合的に勘案し仮地番一二三番区画については一五平方メートル、仮地番一一八ノ一番区画については三〇平方メートル(合計四五平方メートル)をそれぞれ差し引き指定したが、右両区画が不整形地として整形地との条件差をつけざるを得ないところ、被告主張の条件差合計地積四五平方メートルは前記関係各証拠によりうかがえる不整形地の地形状況と面積よりみて不相応な面積とは解されないのでこれを控除して算定するのが相当である。してみると、被告主張のとおり、従前地の地積合計八一三五平方メートルの換地交付基準地積七四〇二平方メートルに比較し、実質的な一時利用地の指定地積合計七四九〇平方メートルは八八平方メートル地積増となり、換地設計基準(同基準が合理的であることは、原告らも認めるところである。)に定める地積調整許容面積の範囲一〇〇平方メートル以内で、しかも、前記算式による地積増減の割合も0.1パーセント減であるから、長谷川嚴らを原告らに比較し、特に有利に取り扱つたということはできない。

(四)  稲岡隆明についてみても、<証拠>を総合すると、仮地番一三二ノ三番区画、同一三三ノ二番区画等が指定されている稲岡隆明と稲岡壽は同一耕作単位を構成しているから、右両名の一時利用地を評価すると、従前地の地積合計は七五二一平方メートルであり、一時利用地指定地積合計は七八三三平方メートルであること、しかし、右一時利用地指定地積中には将来地区の農業用施設用地(集荷所)に計画されている仮地番一三二ノ三番区画三〇七平方メートル、将来の地積変動に活用する調整田としての仮地番一五二ノ一番区画四一四平方メートル、同一一七ノ二番区画二七平方メートル、同一五四ノ二番区画二四二平方メートルが換地委員である稲岡隆明名義で指定されているので、これらを控除する必要があるが、その結果稲岡隆明ら二名の実質的な一時利用地の指定地積は六八四三平方メートルとなることが認められる。そして、右事実によると、稲岡隆明ら二名の一時利用地の実質的な地積増減は一時利用地の指定地積六八四三平方メートルから「換地交付基準地積(九一パーセント)」六八四四平方メートルを差し引いた結果、指定地積減一平方メートルとなり、しかも前記算式による地積増減の割合は約1.2パーセント減となるので、原告らと比較して稲岡隆明ら二名を特に有利に扱つたとはいえない。

してみると、原告ら主張の他の権利者らに対する前記実質的地積増減幅(前記一時利用地指定地積と前記換地交付基準地積(九一パーセント)との差額面積)は、いずれも前記換地設計基準に定める地積調整許容面積の範囲内に留まつているのみならず、前記算式による地積増減の許容割合(二〇パーセント以内)内で、しかもいずれの地積増減面積、地積増減率も前記のとおり原告らのそれらと大差がないのであるから、これらの関係者に原告ら主張のように不当、違法に多くの一時利用地を指定したとか、同人らに特に有利な取り扱いをしたとは、とうてい解されない。

6  被告主張のその他の点について

(一)  谷口恒雄に対する指定処分が一四六平方メートルも面積減であるかどうかについて

<証拠>を総合すれば、用水路拡幅工事の必要性から同人所有の藪地である六七五ノ二番地(一三五平方メートル、乙第一号証の六七五番地の北側)を本件指定に当つて従前地に編入したこと、工事の結果、六七五ノ二番地の土地の一部しか同工事に使用されず大部分は藪のまま残つたこと、右藪地については一時利用地の指定は受けていないので最終的には同六七五ノ二番地を本件従前地区域から除外する予定であることが認定でき、右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、谷口恒雄の従前地五六〇五平方メートルのうち六七五ノ二番地(一三五平方メートル)を除いた五四七〇平方メートルが実質的な従前地ということができ、換地交付基準九一パーセントによる基準の一時利用地指定地積四九七七平方メートルに対し指定された一時利用地の面積が四九五四平方メートルなので二三平方メートルの地積減となるにすぎない。

してみると、谷口恒雄に対し指定地積において特に不利益に取り扱つたとはいえない。

(二)  谷口勇に対する指定処分が従前地がないにもかかわらず指定されたかどうかについて

前記乙第一号証をみるかぎり、谷口勇の従前地(七四四ノ二番地)の所在は定かではないが、<証拠>を総合すれば、本件区域内に所在する同人所有の従前地七四四ノ二番地に対して仮地番一一四ノ二番区画が指定されたことは明らかである。

(三)  公共用地(仮地番一三二ノ三番区画)の取り扱いが不公正であるかどうかについて

<証拠>を総合すると、市道蕪谷線(乙第一三二番区画南側東西に走る道路)の拡幅工事をした際、蕪谷の人々が右拡幅工事のため農用地を提供したこと、その残余地(面積二八二平方メートル)は大沢地区の公共集荷所として確保されていたのでこれに照応する仮地番一三二ノ三番区画が右公共集荷所に対する一時利用地として指定されたこと、同区画は面積が三〇七平方メートルの小分田で公共集荷所としては手頃でありしかも所在も蕪谷に近いこと、が推認される。してみると、公共用地としての集荷所が蕪谷近くで確保されたとしても、右のような指定事情、とくに前記乙第一号証によると原告らも市道蕪谷線拡幅工事に際し従前地である同五九三番地、同五九四番地の一部を提供し右事情は知つていたことがうかがえるうえ、さらに公共地として右一三二ノ三番区画が指定されたとしても原告らに特に著しい不利益を与えるものではないし農用地集団化の目的に相反するものともいえないので、右公共集荷所の用地として右仮地番一三二ノ三番区画が指定されたことが直ちに不当、違法とはとうてい解されない。

三結論

以上のとおり、本件各処分は原告ら主張のいずれの点から検討してみても違法と解することはできないので、原告らの本訴請求はいずれも理由がないものとしてこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(村上博巳 小林一好 横山光雄)

別紙

目録一

(一)(1)加古川市志方町大字大沢字小間田五九三番

田 二九四平方メートル

(2) 同所 字小間田五九四番

田 一五五平方メートル

(3) 同所 字女郎田七〇五番

田 一一六〇平方メートル

(4) 同所 字女郎田七〇七番

田 九五二平方メートル

(5) 同所 字女郎田七一四番

田 五三二平方メートル

(6) 同所 字女郎田七二六番

田 一二八平方メートルのうち 五一平方メートル

(二)志方地区県営土地改良事業第一一工区

仮地番一二九番区画

田 二九八五平方メートル

別紙

目録二

(一)(1)加古川市志方町大字大沢字門垣内六〇六番

田 一七三八平方メートル

(2) 同所 字女郎田七〇六番

田 二〇八平方メートル

(3) 同所 字女郎田七一六番

田 四五九平方メートル

(4) 同所 字女郎田七三九番

田 五五八平方メートル

(二)志方地区県営土地改良事業第一一工区

仮地番一二八番区画

田 二五四九平方メートル

図面一〜四<省略>

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